ヌートリア

俺はどこかの寂れた旅館の一部屋にいた。何となく不思議な部屋で、江戸時代の農民が住むような粗末な作りになっており、寂れたというよりは、その部屋だけが江戸時代にタイムスリップしているようなイメージだった。

部屋の電話が鳴ったので受話器を取る。電話の設置場所はテレビの真横だった。部屋にそぐわないテレビや電話がある事に違和感は感じていない。

電話の主は誰だが分からないが、そんな事はどうでも良かった。それ以前に受話器のケーブルとテレビのコンセントケーブルが複雑に交差しており、非常に通話がしにくい事の方が問題だった。イラッとしたのでテレビのコンセントを「ンーーーッ」と引き抜いた。すると後ろから「何してくれてんだ?」と、野太い声が聞こえた。この部屋に自分以外がいるとは思っていなかったのですごく「ビクッ」となった。

振り向くと矢代さんがいた。右手で頭を支えるように身体を横たえた体勢で、俺をとても怖い顔で睨んでいた。聞けば、このテレビは有料で、お金を入れたのは矢代さんなのに、俺がコンセントを抜いてしまった事で入金額がゼロになってしまったらしい。申し訳なく思い、俺は謝った。そしてどうせ100円程度だと思って弁償すると申し出たが、何と入金額は1万円だという。

ウソだろうと思った。俺から余計にお金をふんだくる為の矢代の策略だと思い、激しい怒りを感じた。だがテレビを見ると、横に入金するための機械が設置されており、しっかり1万円用の差込スリットが設けられていた。真意を確かめるべく女将を呼んだ。女将はフィリピン人で、頭に文金高島田を載せていた。女将に確認すると、本当に1万円だという。矢代さんは嘘を言っていなかった。

すると今度は怒りが矢代から女将に代わり、俺は女将にどういう理由で1万円なのか、その内訳を教えてくれと胸倉を掴んで詰め寄った。自分でもビックリするくらい怒っている。女将は一貫して「イヤー、オシエラレナインデスヨー」を繰り返すばかりで、埒が明かない上に微妙なカタコト日本語が更に俺の逆鱗に触れる。「もういい、帰れババア!!」みたいな言葉を女将に浴びせた後、今後どうするか思案する。

ふと、この旅館に自分の知り合いの女性が働いている事を思い出す。女性は俺に惚れており、俺の言う事なら何でも聞く、そのような関係だった。早速その女性に会いに行く為、部屋を出てロビーに向かった。ロビーは果てしなく長い廊下のような作りになっており、俺の知り合いの女性はその一番端の女性用トイレに住んでいるという。

俺は猛ダッシュで廊下を走り、女性トイレのドアを開けた。知り合いの女性がトイレの中で立っていた。フィリピン人で文金高島田だった。テレビ料金の事を質問してみると、その事に付いては一切何も答えることが出来ないと、苦しそうに顔を歪めて言った。この俺にすら言えないとは、よほど大きな力が背後にあるのだと戦慄する。

突如、トイレの外から女性の叫び声があがった。急いでトイレから出ると、スマップの香取シンゴが唖然とした顔で後ずさりながら、「あーらやっちゃった、やっちゃったよこれ。出ちゃったよヌートリア」と言っていた。

シンゴの視線の先を目で追うと、小型犬程度の大きさのヌートリアがいた。「誰が封印を解いたんだ!!」となぜか俺が叫んでいた。どうやら俺はヌートリアについて何かを知っているらしい。

その声を聞いたシンゴが、「ゾウイチ!!」と俺に声を掛けた。俺は「すぐ出動だ、ゾウニ!!」とシンゴに指示し、長い廊下を逆戻りして駆けた。

途中、廊下の脇からヒラリとソファを飛び越えて現れた木村タクヤに「ゾウサン!!」と叫び、目配せで「俺に着いて来い」と指示した。どうやら俺達は三人戦隊で構成されている正義のヒーローらしい。象がモチーフの。

更衣室についた俺達は、それぞれのロッカーで着替えを始めた。ゾウイチ(俺)のバトルスーツは象のヘルメットに半袖Tシャツ、半ズボン。ゾウニ(シンゴ)は象のヘルメットに長袖Tシャツ、半ズボン。ゾウサン(タクヤ)は象のヘルメットに半そでTシャツ、長ズボン。いずれもヘルメットには象の顔のペイントと長い鼻がついており、シャツやズボンはマンモスの毛のようなものがフッサフサについている。

そして3人でヌートリアを退治しに行った。ヌートリアを中心に置いて3人で円陣を作り「ホーラーホラホラ」と言いながら、その円陣の径を徐々に狭めていき、攻撃が当たる径になったら皆でヌートリアに蹴りを応酬して弱らせ、最後にはシンゴのタックルでヌートリアを捕獲。

ここから先の記憶はない。